2020年の終わりに

2020年が終わろうとしていた深夜、トントンと扉をたたく音が。

「こんな夜中にだれ?」と問うと

「ご無沙汰してます」と勝手にドアをあけて入ってきた。

それは満身創痍の「やる気」だった。

丸2年も、どこで何をしていたのか。

余りに疲れ切った「やる気」の姿に怒ることを忘れ

優しい気持ちで迎え入れた。

ということで、2年ぶりのブログ更新です。

先日、ツイッターで流れてきた「先延ばしを改善する10のしないこと」の2番目が「やる気が出るのを待たない」でした。行動を始めることで「やる気が出る」らしいのですが、私の場合、「やる気」は、突然、戻って来て、身体が自然に動き始めるのです。「ヤバい、ヤバい」と思いながらも、その時、身体がしたいことを優先していると戻ってきてくれる。万人の「やらねば、やらねば!」というかけ声で疲れ果てて戻ってくるのが、この怠け者の私のところだと思っています。(都合良すぎだろっ!)

ブログから離れていた理由の一つは、会社のサイトでブログを書き続ける動機が明確でなかったからで、会社を宣伝しなければ、と思うと、全く書けないのです。個人的なことなら、noteに移すべきか、とか、個人アカウントにするか、とか、逡巡していましたが、別に宣伝でなければ、それこそ書くことは山ほどあるので、ネットの片隅で、密かに自分のために書き続ければいいのでは?と「やる気」に諭されました。

2年もかけて、そんなことを考えていたのか、と自分でも呆れますが、2019年に配給したウルグアイ映画「ハッパGoGo 大統領極秘指令」で起こった様々な困難を、これこそ文章にすべきだろう、と思いながら、全く書く気にならなかったことがトラウマになってしまったのかもしれません。その顛末は、気が向いたら、いずれ書こうと思いますが、今日は、折角の大晦日なので、「やる気」が不在だった2020年を振り返ります。

<新型コロナウイルス>

2020年は、1月に東京女子大学で特別講義を行い、2月にベルリン映画祭のフィルムマーケットに行くまで、新型コロナウイルスがこれほどのことになるとは、思ってもみませんでした。成田を発ったのが、ちょうど、ダイヤモンドプリンセスから検査で陰性だった人々が下船する日。本当に、これで大丈夫なのか?と思いながら、一応、マスクや消毒液を持ってベルリンに到着すると、だ〜れもマスクしていないし、普通にハグで挨拶を交わしていたので、まだまだ対岸の火事だなあ、と思っていました。

すでにイタリアやスペインでも感染者は出ていましたが、地域限定だったので、騒ぎすぎだと思っていた人々もいました。それが、27日に帰国すると、なぜか全国一斉休校が始まり、3月に入るとヨーロッパで感染者が急増。あれ?やっぱりやばいのでは?と思い始めました。未知のウイルスに「とうとう自然の反逆が始まったか」と戦慄し、正体を早く知りたくて毎日、ネットに上がってくる英語の論文を読みあさっていました。自分がどう対処すれば良いのか、納得したかったからですが、情報が錯綜し、他にできることと言えば各国の対応のニュースを追うぐらい。

日本政府も東京都もオリンピックがあるからか3月に延長が決まるまでは何もしないことに決めたかのようでしたが、延長が決まっても、渋々の緊急事態宣言で、一体、本気で抑え込もうとしているのか、それともスウェーデンのように集団免疫獲得なのか、皆目不明でした。スウェーデン人の配給会社社長が以前、「元々、自分たちは人との距離をとるのが当たり前で、誰も乗っていないバスが来たら、先頭の人は一番前に、次の人は一番後ろに、三番目の人は真ん中に、という風に座るほどだ」と言っていたことを思い出しました。その社長は中国の大手映画会社の社長から、映画を買うのか買わないのか、と顔を近づけて詰め寄られ、「それ以上、近づくな!離れろ!このアホ!」と言い放ったことで有名です。

スウェーデンでは、高齢者が多数亡くなったことや、集団免疫が獲得されなかったことで、先日、国王が「対策は失敗だった」と述べました。でも、どっちつかずな日本から見ると対策を明確にすることで覚悟もできるし、路線変更もできるのではないか、と思います。

あれから9か月たちましたが、日本は未だに保健所での検査も受けにくく、検査を増やしたら医療崩壊だ!と言いつつ、そんなに増やさなくても崩壊しているのが現状です。

今日の大晦日、東京での新規感染者は初めての1,000人越えで1,337人。

政府も都知事も「外出を控える」要請しかしていませんが、4月の緊急事態宣言の時には止まった人の流れも、もう止められないのでは?と、渋谷の街を見て思います。

ニューヨークやバルセロナにいる友人たちとZoomで話すと、皆、口を揃えて「日本はみなマスクしているし、政府に従順なのに、なんで増えてるの?」と言います。あちらでは、マスク反対デモもあるし、スペインでは非常事態宣言の規則を破ると罰金から、ひどい場合には逮捕もあるのですが、11月に入って18日間で罰金が5,148件、と、人々を制御するのは、とても難しいのです。

それと比べると日本は、ほんとに良くできた人々が多くて、処罰がなくとも自粛する。なのに、首相自ら会食したり、議員たちが宴会やってるんじゃあ、もう、やる気もなくす、というものです。「あんな高齢者たちが宴会して大丈夫なら、大丈夫じゃないの?」ってなっても不思議ではないですが、いちいち、為政者の行動に照らし合わせて自分の行動を決めるのは愚だとも思います。

ということで、私は普通の対策で、あとはマスクして運動もしています。身体が求めることに極力応えることで、何か異変があったときに、素早く教えてくれるから。その昔、芝居をしている時に、どうしても腕の動きが思うようにいかず、「身体は他人や」と演出家に言われ、精神と身体は並列で相互補完的なものだと感じたからです。なので、必要なのは「賢い身体と丈夫な頭脳」。今年は身体が中心だったので、来年は、いくら考えても、一晩、眠れば復活する丈夫な頭脳を獲得したいと思います。

<映画と字幕>

字幕は依然として、映画とCNN。自分の学びと共に、ちゃんとしたギャラで引き受けることが基本です。2020年に上映された作品で字幕を担当したのは2本。

ホドロフスキーのサイコマジック

 

ぶあいそうな手紙


どちらも大好きな映画。

「ホドロフスキーのサイコマジック」の公開が緊急事態宣言と重なり、変則的でしたが、フィクションではないホドロフスキーの生の声に字幕をつけることが、とても楽しかったです。内容はそれぞれの内面に迫るものですが、それを受け止めるホドロフスキーと変わっていく人々に、グッときて没入しました。

「ぶあいそうな手紙」は、ポルトガル語とスペイン語、そして、ポルトニョールと言われるスペイン語なまりのポルトガル語も合わさって、舞台となったブラジルの街、ポルトアレグレらしい作品。ブラジル南部、ウルグアイとの国境に近い街で、主人公のエルネストはウルグアイ人、隣人はアルゼンチン人。そこに若いブラジル娘ピアが関わってくるのですが、エルネストは知性も感性も柔軟でピアとのやりとりも絶妙です。何よりも、カエターノ・ヴェローソの挿入曲(作詞作曲はアルゼンチンのフィト・パエス)が最高。

そして…


昨年7月に新宿K’s cinemaで公開された「ハッパGoGo 大統領極秘指令」は、今年、アップリンク吉祥寺での上映が緊急事態宣言に重なり、3月の予定が6月に。その後、富山のほとり座、下高井戸シネマで上映いただき、ついに配信が始まりました。

Filmarksで配信へのリンクや皆様の感想が見られます。

CNNは主に、月に1本か2本、大好きなリチャード・クエストがホストをつとめるビジネストラベラーと特番などの字幕を行っています。

<まとめ>

個人的なことから始めると、仕事のことも書けるということに今、気づきました。

今年は本当に新型コロナウイルスのことを探る以外、何もしなかったような1年でしたが、福岡伸一さんの「生物と無生物のあいだ」を読み返したりして、人間中心の世の中を考え直す機会になりました。ウイルスの立場に立つと「拡散」し続けることでしか絶滅を免れないのですから、人と人が密接に仕事をする食肉工場や高齢者施設、病院などが格好の場になってしまう。今回、使われるようになったエッセンシャルワーカー(不可欠な仕事をする人)という言葉も、本当に不可欠なら、もっと待遇が改善されるべきだ、と誰もが思ったと思います。人と人とが関わる旅行や飲食業は厳しい状況におかれ、これから失業する人ももっと増えるでしょう。自分も含めて、いつ、何が起こっても不思議ではありません。それでも、新型コロナウイルスは、余りにも富が偏在しているということを暴き、財産や権力や生産性で人をはかる世の中に警鐘を鳴らしているような気がします。

本当は1995年や2011年の震災、原発の爆発の時も変革できるチャンスだったのかもしれません。あの時も、もう、これまでのようには生きられない、と思ったのに、それを忘れてしまっていた自分に気づかされました。

すでに変異株が拡散していることから、「撲滅」は難しそうで、来年も続く覚悟をしています。いま、各県で起こっている鳥インフルエンザも、なぜ、こんなに拡がっているのか、気になって仕方ありません。そんな中で、どう、生きていけるか、生きていきたいか、を考えながら、でも、できるだけ機嫌良く、ぎすぎすしないで来年を迎えたいと思います。