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第一回リビエラ・マヤ映画祭(2)

さて、今回は映画の話。行ってよかったと思ったのは、企画やWork in Progressに出している監督やプロデューサーたちが、「売る」とか「ヒットさせる」とかというよりも、「これを撮りたい、撮らねば」という想いだけで清々しかったこと。
いや、もちろん、監督と一緒に来ていたプロデューサーたちは、誰だってヒットさせたいだろうけれど、それが優先事項ではないから、考える順番が全く違う気がした。
ラテンアメリカは、まだまだ、監督主導なのだが、それは、プロデューサーと監督が互いに尊重し合えなければ組まない、という頑さにもある気がする。
そして、同時に観客を信じている。きっと、この映画を観たい人はいる、受け止めてくれる人はいる、という根拠なき自信。
だから、みな、誇らしげにプレゼンする。ちょっとした映像を持って来ている監督もいたが、企画に関しては、タイトルとおおまかなシノプシスが大半で、あとは、基本、監督とプロデューサーの「しゃべり」だ。
今回の募集には、158のプロジェクトが集まり(日本からもあったらしい)、
その中から選考された10本の企画と8本のWork in Progressが賞金を競った。
3日間でこの本数。そして、one-to-oneという監督たちとの一対一の会議も
含めて、スケジュールは満杯!
Q&Aに入ると、質問が飛び出す。
「今、どの段階にあるのか(脚本は?キャストは?ロケハンは?)」
「予算の試算はどの規模か。で、今、どのぐらい資金が集まっているのか」
もしくは
「あといくら必要か?」
あとは、
「この企画がなぜ重要だと思うか?」
「(ラフ編の場合は)どの部分に手を入れるつもりか」
「完成作品は何分ぐらいを考えているか」などなど。
企画の中から選ばれる3本に200,000メキシコペソ(約15,000USD)、
Work in Progressから選ばれる1本に200,000メキシコペソ、もう1本には、
46,000USD相当のデジタル・ポストプロダクション費用が贈呈される。
毎日、昼食時や夕食時、パーティで、その日に観た作品や企画に対して
自分がどう思うか、を互いに言い合えたことがとても楽しかった。
同じ便で空港に着いたフランス、ノルウエイ、ドイツ、オーストリア、
スペインからの参加者たちと、食事やお酒を楽しみながら、様々な作品に
ついて話しだすと、あっと言う間に時間がすぎて、話題がつきない。
(フランス人が多かったこともあって、アカデミー賞をとった「アーティスト」の
裏話が非常に面白かった!)
今回は、メキシコにいながらも、共通言語は英語でした。
受賞した3企画
「レイモン」
監督: ロドリゴ・モレノ
アルゼンチン/ドイツ
「トルメンテーロ」
監督:ルベン・イマス
メキシコ
「ヌエバ・エスパーニャ」
監督:ラヤ・マルティン
フィリピン
「レイモン」の企画を出したアルゼンチンのロドリゴ・モレノは、
2006年のベルリン国際映画祭でアルフレド・バウアー賞を受賞、
ラテンビートでも上映された「ボディーガード」の監督。
フランス語版の予告編

「レイモン」は、今回、最もビジョンがはっきりしていた企画で、
これからは、どのようにして低予算で良作を撮るかに挑戦する、と断言。
俳優は使わず、主演は父親のマンションの警備員をしている女性。
住み込みメイドの話、と聞くとチリのセバスティアン・
シルバ監督の「家政婦ラケルの反乱」やノルマ・アレアンドロ主演の
日本未公開アルゼンチン映画「Cama Adentro」など思い出すが、
すでに撮影機材一式をタダで借りる算段をつけ、この賞金で撮り始める
という監督がどんな映画をつくるのかが楽しみ。
「トルメンテーロ」のルベン・イマスは、2007年のトゥールーズ
ラテンアメリカ映画祭でグランプリを受賞し、ガエル・ガルシア・ベルナル、
ディエゴ・ルナら設立したCanana Films が配給した「Familia Tortuga」の監督。

授賞式前日に皆で予想を言い合って誰も入るとは思わなかったのが
ラヤ・マルティンの「ヌエバ・エスパーニャ」。
「メキシコにテレポーテーション(念力移動)するフィリピン兵士の物語(!)」ということで、いくらなんでも予算かかるだろうし、どんな映画になるのか皆目見当つかないぜ、というのが皆の本音だった。
唯一、分かるのはスペインに統治されたことがある2カ国の話だということなのだが、この監督、1984年生まれで、24歳のときフィリピン人で初めてカンヌ映画祭のレジデンスに選ばれた期待の星。最近はもっぱらモノクロで撮っている。
INDEPENDENCIA 予告編

次回は最終回。Work in Progressとその他、気になった監督たちのお話。