default img

「イースタン・プレイ」

♡ お久しぶりです!
映画ジャーナリストLuckyHouseの3度目の登場です。
今回は、10月に催された東京国際映画祭コンペティション部門の
各受賞作とvagabundaさんが、ちょっとそそられると書いていた
「ストーリーズ」「見まちがう人たち」についての雑感です!
なお、幾つかの作品の公式記者会見では、質問もしましたので
その質問に対する監督たちの返答も併せて紹介いたしましょう。
///////////////////////////////////////////////////////////////
「イースタン・プレイ」TIFFグランプリ&監督賞&男優賞受賞!
映画祭終盤に登場したブルガリア映画(アジアン・プレミア)で、
今回のコンペティション作品の中では、群を抜くできばえだった。
パリのフェミス(フランス国立映像音響芸術学院)で学び、
短編で腕を磨いてきたカメン・カレフ監督の初長編作である
本作は、首都ソフィアを舞台に、全く異なるスタンスで生きる
兄弟の再会を軸にして、彼らを取り巻く社会の非常に厳しい
現実と“閉塞感”を見事に浮き彫りにした人間ドラマである。
兄は、ドラッグ中毒から立ち直ろうとしている画家フリスト。
彼はアルコールに溺れそうになりながらも、メタドン中毒を
治療すべくクリニックに通っている。
オランダから戻った旧友とは、現状の打破についてカフェで
夜を徹して熱く語り合うが、ガールフレンドのニッキーには
驚くほど冷たくあたる青年だ。
弟は、父親が家に連れ込んだケバい中年女に母親づらされて
居所がなく、深く考えもせず誘われるがままにネオナチ集団に
入ってしまった少年ゲオルギ。
そんな兄弟が久々に再会したのは、観光に訪れたトルコ人の
一家を弟のネオナチグループが襲った時だった。
偶然、そこに通りかかったフリストは襲撃を止めようとするが、
反対に殴り倒されてしまう。朦朧とする意識の中でフリストが
見たのは、弟ゲオルギの顔だった。
助けたトルコ人一家の美しい娘ウシュルに感謝され、親しく
言葉を交わすようになったフリストは、やがて彼女が自分の
孤独な人生を終わらせてくれる存在になるのではないかと
いう想いにとらわれ、一方のゲオルギも、暴動に参加後、
ネオナチへの関わりに疑問を持ち始め、兄の住むアパートに
同居することでネオナチ集団から距離を置き、やり直しを
図ろうとするが…。
ブルガリア映画を(首都ソフィアの景観も含め)観たのは
初めてだが、不安定な社会状況下で、人生における希望を
見出せず、忸怩たる想いを抱えている人々の姿をリアルに
描き出した力作である。
アルコール依存症の画家を演じた主演俳優の好演も光っており、
今回の東京サクラ グランプリ&最優秀監督賞&最優秀男優賞
(フリスト・フリストフ)のトリプル受賞もむべなるかな。
コンペティションの審査委員長を務めたメキシコ出身の
監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは、
「あくまで観客の立場で、エモーショナルに心揺さぶり、
五感に訴えかける映画を選ぼうと考えた」と選考基準を
説明した上で、本作の「作り手の誠実さが伝わった」と
コメントしたが、大いに納得の結果だ。
だが、残念なことに本作の最後に、映画の完成を待たずして
亡くなったフリスト・フリストフ(1969年~2008年)
への追悼の辞がテロップで出てくる。
本作は彼に捧げられているのだが、なんと彼はプロの俳優
ではなく、この映画自体が、彼の実人生にインスパイアされて
創作された物語であり、C・フリストフ本人が自分を演じていた
と知って驚いてしまった。
実際にもアルコール依存症の画家だったフリストと監督は、
同じ街で育った幼い頃からの友人で、キャラクターは本人
そのもの。そして、彼の生き方と視点を用いて描写した映画
なのだという。
撮影も彼が暮らすアパートや仕事場、通ったクリニックで
行ったとのことで、登場するアートも彼が実際に描いた絵。
亡くなったのもドラッグが原因だったという。
彼が映画でアル中になった理由を述べる場面は、撮影前に
彼が監督に実際に語った言葉をそのまま使用した。
オランダから戻った友人が、恋人を伴ったフリストと
夜のカフェでビールを飲みながら語り明かすシーンは、
5年ぶりにパリからブルガリアに帰国した監督が久しぶりに
彼と会った夜をそのまま再現したもので、実際に同じカフェの
同じテーブルに座って熱っぽく語りあったのだという。
胸が痛むのは、ガールフレンドのニッキーを演じたのも
彼の恋人だった女性本人だということ。一体、彼女は
どんな想いで自分自身を演じていたのだろうか?
しかし、彼の真実がリアルに反映されているとは言っても、
もちろんストーリーそのものはフィクションである。
ネオナチグループの首領役を始め、ほとんどの役に素人を
起用したが、ウシュル役のサーデット・ウシュル・アクソイは
トルコで活躍するプロの女優だ。
この“虚実相半ば”が、この映画に不思議な魅力を加えたのは
確かで、主演俳優の撮影終了直前の死がコンペの審査に影響を
与えたことも否めはしない。
だが、カメン・カレフ監督は新人ながらも感情に流されない
骨太の演出を見せたのも事実だ。監督としての真価が問われる
次回作が楽しみである。
そして、この受賞結果を聞き、思い浮かんだのは、2003年の
カンヌ映画祭でグランプリ&男優賞を受賞したヌリ・ビルゲ・
ジェイラン監督のトルコ映画「UZAK/冬の街」だ。
この映画は職にあぶれた失業中の若者が、イスタンブールで
写真家をしている親戚を頼って上京。職を探すまで共同生活を
始めるという物語なのだが、閉塞感に喘ぐ中で、少しずつ変化
していく人間の心の機微を見事に掬いとった作品で、どことなく
「イースタン・プレイ」とテイストが似ているのだ。
そして、理想と現実の生活の間に大きなギャップを感じている
中年写真家を演じたムザファー・オズデミールと若者を演じた
メメット・エミン・トプラク(監督の実の従兄弟)の2人が、
揃って男優賞を受賞したのだが、残念ながらメメット・エミン・
トプラクはカンヌ映画祭上映直前に事故でこの世を去っていた。
奇しくもである。